INTERVIEW

伊礼 智

良いものは、
外部からやってくる。
それを取り入れることで、
豊かになれる。

伊礼 智SATOSHI IREI建築家

良いものは、外部からやってくる。
それを取り入れることで、豊かになれる。

「窓は日常を浄化する装置」なんだと思います。

伊礼さんは「誰もが心地よいと思える家づくり」を追求されていますが、“住宅の役割”をどのように捉えていらっしゃいますか?

伊礼基本的には、住宅はリフレッシュするところ、疲れが取れて充電できるということが、住宅の役割として一番大事なことだと思っています。それでは、どうやってリフレッシュするか?いろいろなことが考えられますが、中でも、窓が果たす役割は非常に大きい。私は「窓は日常を浄化する装置」だと思っているんです。断熱性能を良くするためと言ってお風呂に窓はいらないとか、トイレにはいらないとか、そういう考え方もあるかもしれませんが、それでは、建築が痩せるというか、暮らしが痩せるというか、住宅としての魅力がなくなってしまう。ちょっとでもいいから空が見えたり、足元の緑が見えたり、外の風景とか外の色、光の具合が見えるということが、リフレッシュにつながる、心が浄化されるということにつながるんだと思います。

伊礼 智

大事なことは、性能と意匠のバランスの取り方。

リフレッシュという意味で、外とのつながりがポイントになるということですね?

伊礼はい。西洋では窓を「壁に空いた穴」と捉えるのに対し、日本の窓は「間戸(マド)」。柱と柱の間が“マド”であると私は教わりました。開け放つと外と内が一体になる。季節の移り変わりなど、常に外部と応答しながら暮らすというのが、日本の昔ながらの家屋の特徴だと思います。光も風も匂いも音もコミュニケーションも良いものは外部からやってくる。それを取り入れないと豊かになれない。インテリアをどれだけ良くしても、内部だけだとやはり息苦しくなってしまうものです。外部からやってくる良いものは取り入れて、そうでないものは制御していくことが大事で、外部を適度に取り入れていくということは、住宅においてとても重要なことなんだと思います。

国の省エネ政策もあり、近年、窓はより高い断熱性能が求められるようになってきていますが、伊礼さんは、これからの「日本の窓」の在り方・方向性についてどのようにお考えですか?

伊礼確かに断熱性能向上は重要なポイントですよね。そこに加え、これからの時代は、意匠や良い景色が見えるといったことも含めて、トータルに窓を計画していくことが大事になってくると思っています。どちらか一方を優先するのではなくて、両立すること。性能と意匠のバランスをいかに取っていくかということが、これからの日本の窓、そして住宅全体を考える上でもますます大事になってくるのではないでしょうか。私は設計コンテストの審査員をやらせていただく機会も多いのですが、そういったことを建築家や工務店の皆さんにもお伝えしています。建築家の中には、住宅の高性能化や太陽光発電に対して後ろ向きな人もまだまだ少なくありません。また、木造伝統工法をやっている工務店さんで「高気密・高断熱は木が喜ばない」という方もまだいらっしゃるんですが、それもわかるんだけど、でも、それを乗り越えて、

伊礼 智

住む人が本当に喜ぶような家を作らないといけないですし、世の中の環境問題への意識がこれだけ高まっている中で、そうした社会が抱えている問題に向き合っていくことも大切ですよね。これからは、性能だけに偏るのも違うと思いますし、デザインだけとか、空間的な新しさだけを評価すべきでもないだろうと。だから、性能と意匠を両立することの大切さを、建築家や工務店の皆さんにお伝えしていきたいと考えています。そのためにはまず私自身が率先してやらないといけませんが。

最近、ご自宅を新築されたそうですが、ご自宅の窓も性能と意匠のバランスで選択されたんですか?

伊礼はい。一部の窓を除いて、TOSTEMのTWを採用しました。断熱性能が高く、フレームがスリムなのでシャープな印象になります。こういうバランスのとれた窓を、メーカーにはいっぱい出していってほしいですね。

伊礼 智

伊礼 智SATOSHI IREI建築家

1982年琉球大学理工学部建設工学科卒業後、東京芸術大学美術学部建築科大学院修了。1996年伊礼智設計室開設。居心地のいい設計を基本とし、自然エネルギーを利用した環境と応答する住まい、自然素材に包まれて見えない物までデザインされた住まいでありたい」をモットーにグッドデザイン賞をはじめ数々の賞を受賞。