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ものづくりLAB

タイルに見る、世界の“青”

古代エジプトのピラミッド内に施されたターコイズブルーのタイル。タイルにおける青色は古くから珍重されてきた

古代エジプトのピラミッド内に施されたターコイズブルーのタイル。タイルにおける青色は古くから珍重されてきた

高貴な存在を象徴してきた青のタイル

人類とタイルの歴史は、約4670年前の古代エジプトの時代まで遡ります。現存する世界最古の石造建築であるエジプト・サッカラの「階段ピラミッド」、その地下通廊にターコイズブルーの装飾的なタイルがはめ込まれていました。この青色のタイルは、1ピースのサイズがおよそ60mm✕40mm、表面は若干丸みを帯びた形状で、鮮やかな色合から宝石のような神秘的な雰囲気を感じさせます。当時のエジプトでは、死者の魂は蘇ると考えられており、ピラミッド内に眠る王の魂がこの美しいタイルで飾られた扉を通り抜けていくと考えられていたそうです。また、古代エジプトでは青は高貴な色として捉えられ、トルコ石やラピスラズリといった宝石は大変貴重な存在でもありました。その青を色鮮やかな釉薬で表現した焼物もまた、人造の宝石として珍重され、王の棺や装飾品にも用いられていました。

イスラム建築のタイル装飾を再現した世界のタイル博物館の展示

イスラム建築のタイル装飾を再現した世界のタイル博物館の展示

そして、このタイルにおける“青”の表現は、時代や文明と共に世界中に広まり、様々なカタチへと進化していきます。特に、9世紀から15世紀の中東のイスラム圏では、偶像崇拝を禁じる信仰のなかで、宗教建築に装飾として幾何学的な文様と青色が用いられており、高貴な色として扱われていたのが窺えます。このイスラム建築に用いられたレリーフタイルの青は、主にコバルトや銅を釉薬に使用したものでした。

人々を虜にした白と青のコントラスト

14世紀頃には中国で白磁に、藍色で絵や文字を描いた「青花(せいか)」が生まれる

14世紀頃には中国で白磁に、藍色で絵や文字を描いた「青花(せいか)」が生まれる

一方、10世紀頃の中国(当時の宋)では、同地で産出される粘土鉱物のカオリンを原料にした白磁の技術が広まり始め、14世紀頃にはイスラム圏からのコバルトによる藍色の顔料を取り入れた「青花(せいか)」と呼ばれる磁器が多く作られるようになります。この白地に藍の美しいコントラストは高級感を感じさせるもので、交易を通じて中東、ヨーロッパのタイルにも影響を与えていきます。

14世紀以降、モロッコからイベリア半島を通じてスペインへと、様々な色を用いたカットワークモザイクの手法が伝わった(画像は20世紀にモロッコで作られたタイル)

14世紀以降、モロッコからイベリア半島を通じてスペインへと、様々な色を用いたカットワークモザイクの手法が伝わった(画像は20世紀にモロッコで作られたタイル)

中世ヨーロッパでは、もともと建築の装飾には大理石のモザイクタイルが用いられていましたが、イスラムの装飾的な焼物のタイルが伝わると、その美しさや表現の自由度から、当時の世界的な覇権を握っていたスペインやオランダ、イギリスを中心に広く作られるようになっていきます。ヨーロッパでは、錫釉による白い釉薬を下地にさまざまな金属酸化物を顔料に用いた、多彩な色合いのタイルが生まれていきました。その後、産業革命と共に多様な造形、装飾表現がなされていくなかで、シンプルながらも繊細さと清潔感を持ち合わせた白地に青の表現は、中国を始めとするオリエント文化への興味も相まって、根強く用いられ続けていくことになります。

17世紀のオランダでは、中国製の人物を描いた焼物に影響を受けながら、身近なモチーフを表現したタイルが多く作られた

17世紀のオランダでは、中国製の人物を描いた焼物に影響を受けながら、身近なモチーフを表現したタイルが多く作られた

タイルにおける青の変遷は、人類の文明と産業の歴史、文化交流のつながりと広がりを感じさせるものと言えるかもしれません。また、その青が愛され続ける理由には「空や海といった自然に対する人の根源的な憧れ」があると語る人もいます。長い歴史の中で育まれてきたタイルの青が持つ複層的な奥行き、艶、濃淡を見ていると、その言葉の意味に思い巡らすことになるでしょう。

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